ノーチェ
どのくらい、そうして居たのだろう。
冷えてかじかんだ手を擦り合わせ、息を吹き掛ける。
そして、夜空に浮かんだ満月を見上げた、そんな時。
チャリ、と聞き覚えのある音と引きずるような足音。
あたしの心臓が、ドキンと跳ね上がる。
そして立ち上がったあたしの瞳に映ったのは
「……お前、何して…。」
擦り切れたエンジニアブーツに、腰からぶら下がるウォレットチェーン。
前よりも色が控え目になった茶髪に、破けたジーパン。
……薫。
やっと、会えた。
「……もしかして、ずっと待ってたのか?」
驚いて目を丸くした薫は巻いていたマフラーを解いてあたしに歩み寄る。
「…ごめんね、突然…。啓介くんから、場所聞いて…。」
「そう。」
だけど、神様はやっぱりあたしを赦してくれてなかった。