ノーチェ
「帰れ。」
そう一言呟いた薫は、マフラーを渡してあたしを通り過ぎる。
そして鍵を取り出して部屋のドアに差し込みながら
「バイク、今修理してっから送ってやれねぇけどもう遅ぇし。気を付けて帰れよ。」
そう言って、あたしから視線を逸す。
あたしはきっと
どこかで思い込んでた。
薫なら、喜んでくれるって。
薫なら、あたしをもう一度受け入れてくれるんじゃないかって。
そんな訳、なかったのにね。
我ながら、いい方向に考えすぎ。
そんな自分が情けなくて泣けてくる。
だけど――――…
「…薫っ!!」
今まさに部屋に入ろうとしていた薫は、あたしの呼び掛けに、立ち止まった。
言わなくちゃ
伝えなくちゃいけない事が
あるでしょ?