ノーチェ
ふっと伸ばされた手。
キスをされるのかと身構えると、ベッドの脇に置いた腕時計を取った彼は
「また、電話する。」
そう言ってあたしの頭を撫でた。
遠ざかる彼の背中を見つめバタンと耳に届いた扉の音。
月明りだけが浮かぶ部屋の隅でまだ消えてない煙草の煙。
ほんのりと炎を灯す煙草から視線を外して
枕へと顔を押し付けた。
…煙草は嫌い。
特に、セブンスターは。
―――――…
彼、桐生さんと出会ったのは去年のクリスマス。
ロマンチックな出会いなんかじゃない。
こんな不埒な恋に、ロマンも愛もない。
わかってて、あたしは彼に溺れてる。
それがどんなに罪でも
彼の左薬指に光るその証が眩しくても
あたしは彼に、恋に落ちたんだから。