ノーチェ



………………

「薫、これ運んでー!」

ドア越しに居る薫に叫ぶあたし。



「…ったく。お前、人使い荒すぎ!」


そんなあたしにぶつくさ文句を垂れる薫に段ボールを手渡すと

「いいじゃん、薫は力持ちでしょ?」

ふふん、と鼻を鳴らして言ってやった。




「あのなぁ、俺はわざわざ仕事休んで…、」

「んもーいいから、ちゃっちゃと運ぼうよ!」

言い返そうとする薫の言葉を遮ったあたしに
溜め息が聞こえる。




「お前、後で覚えてろよな!」

「はいはい。」


ヒラリと笑顔で手を振ったあたしの左薬指に光る指輪。




「仲いいねー!」

「菜月、ごめんね手伝わせて。」

ひょっこりと顔を覗かせた菜月は新聞紙で食器をくるみ、それを段ボールへと詰めていた。



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