ノーチェ
「菜月、高い所はあたしがやるから。」
「いいよぉ、そんな気遣わないで!」
そう言った菜月から食器を奪い取ると
「ダーメ。もう一人の体じゃないんだから。」
あたしは新聞紙でそれをくるみ始める。
「えへへ、そうだよね。」
少しだけ膨らんだお腹を撫でる菜月は、幸せそうに頬を赤らめた。
そんな菜月に笑顔を向けて、引越しの準備は着々と進んでゆく。
「あー、もうマジ疲れた!ちょっと一服させて。」
戻ってきた薫は、何もない床にドカッと座り込み煙草を取り出した。
だけどあたしはその煙草を取り上げる。
「薫、菜月が居るから外で吸ってよね!」
そして思い出したように立ち上がった薫は
「あぁ、わりぃ!そうだよな、ごめんね菜月ちゃん!」
そう言いながら顔の前で手を合わせた。