ノーチェ
それから、会話といえる会話も交わさないままようやく目的地へとたどり着いた。
薫が指示したその場所は小さな繁華街の隅にある寂れた古いバー。
何でここに?
と思ったけれど、あえて聞かなかった。
どうせ二度と会う事なんてない。
夕暮れに染まる街路樹を見て思った。
「わりぃな、こんな所まで。」
「どういたしまして。」
嫌味を込めてそう告げると、薫は笑って車から降りた。
そして短くなった煙草を消すとブーツの裏で踏みつぶし、火を消す。
「じゃあ、」
とりあえず早くお店に戻らなきゃ、そう思いながらハンドルを握ると
「莉伊、」
窓に手を掛けた薫が腰を曲げて顔を覗かせた。
ただでさえ明るい薫の髪の毛が、夕焼けに照らされてオレンジ色に光る。
「自分削ってまで追い掛ける恋愛に、未来はねぇよ。」