ノーチェ



ドクン、と心臓が音を立てた。


薫の言葉に傷付いたとかそんなんじゃなくて

夕日に染まる
薫の笑顔があまりに綺麗だったから。



『莉伊』とあたしを呼んだ薫の瞳が

あまりに、真っ直ぐだったから―――…





「…あ、あなたに関係ない、でしょ。」

そっけなく視線を逸してあたしは前を見据える。



「まぁ、確かに関係ねぇけど。」

じゃあな、と手を振る薫はそう言い残して
古びたバーの中へと消えた。



夕暮れに、セブンスターの香りを置いて

薫の去った車の中、あたしは溜め息をつく。


『自分削ってまで追い掛ける恋愛に、未来はねぇよ。』


「…そんなの、わかってるわよ…っ。」


…わかってるからこそ、こんなに苦しいんじゃない。





その日、いつの間にか晴れ間を見せた気紛れな空は

結局夕焼けを沈ませたまま雨を降らせなかった。





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