ノーチェ
…声と、煙草
……………
湿った空気に生温い風。
時折舞い落ちる雨は
道端に水溜まりを作り、太陽を反射させた。
雨粒に濡れた紫陽花が
誇らしげに花を咲かせる梅雨の時期。
ジューンブライドなんてよく言うけれど
こんなジメジメした天気でウェディングドレスは着たくないな、なんて
ふと考える。
だけど雨は好きだった。
あたしの中に渦巻く汚くて醜い感情も、どこかに洗い流してくれるんじゃないか、そう思うから。
「はぁ…。」
お客さんの居ない街角の花屋で憂鬱がこぼれた。
ちなみに、今の溜め息はあたしのじゃない。
「何よ、溜め息なんかついて。」
「別にぃー。」
どこか不機嫌そうな菜月はあたしの言葉に適当な返事を返すと
先程よりも大きな溜め息をつく。