ノーチェ
クリスマスの花屋は
一年の中でも最も忙しいと思う。
母の日も忙しいけれど
賑わうクリスマスの街はどこか浮き足立って見えて、あたしは毎年訪れるこの日が嫌いだった。
だからこそ、つい笑ってしまったの。
「ねぇ、見て。」
バケツの水を替える菜月の袖を引っ張る。
「ん~?」
「薔薇、100本だって。」
予約簿のリストから
やけに目立つその名前を指差した。
「クリスマスに薔薇100本あげるとか、どんな男だろ。」
「さぁ。ただの見栄っ張りでしょ。」
鼻で笑った菜月は
よっ、と掛け声をあげてバケツの水を捨てる。
冬の花屋は
暖房など付けないからとても寒かった。
だけどそれ以上に寒い男が世の中には居るもんだな、そう思っていた。
この時までは。