ノーチェ
「莉伊、」
ふいに名前を呼ばれて
視線を夜景から桐生さんに移すと
ワイングラスを持った彼は、ベッドに腰を降ろした。
胸元まで伸びたあたしの髪を撫でて微笑む。
もう何度も抱かれているのに、触れられる度に加速する鼓動。
あたしを見る目が優しく感じるのは、気のせい?
淡いオレンジの明かりの中、無音のホテルでそっと髪を撫でていた手をあたしの手に重ねると
「梅雨が終わったらさ、どこか行こうか。」
と残り半分のワインを飲む桐生さん。
「―――え…?」
…どこか行く?
それって……。
唖然とするあたしに彼はワイングラスを回して言った。
真っ赤なワインはグラスの中で桐生さんの動きに合わせて揺れる。
「7月7日、誕生日だろう?」