ノーチェ
花屋という職業は、本当に損だと思う。
手は荒れるし、冬は寒いし、帰りも遅い。
元々、花が好きだったあたしは自分が選んだこの職業に少しだけ、後悔してた。
特にこんな日は
まるで幸せを見せつけられるような、そんな気分になる。
「そう言えばさ、」と思い出したように口を開いた菜月は
早々と閉店する準備を始め出した。
「薔薇100本の人、来ないね。」
「あー、そうだね。」
びっしりと埋められた今日の予約簿に
一つだけチェック印がついていない。
「どーせあげる前にフラれたんでしょ。」
と、毒づく菜月はホウキの柄に手を重ねてその上に顎を乗せる。
「て言うか、今時クリスマスに薔薇100本って。ねぇ?」
「まぁ、確かにね。」
パタンと予約簿を閉じてショーケースに入れられた花束に視線を置いたその時。