ノーチェ
「すみません。」と遠慮がちに届いた声。
あたしと菜月の動きがまるで時間を止められたようにピタリと静止した。
…一目惚れ。
そんな簡単に恋に落ちるだなんて、ありえないって思ってた。
だからこそ、この胸の高鳴りを気のせいだと言い聞かせた。
だけど心までは偽れなくて。
蛇口をひねり、水が流れるように
坂道を転がるように
あたしの心は
彼に奪われたんだ。
「…あ!い、いらっしゃいませ!」
閉店ギリギリの来客に慌てて菜月がホウキを背中に隠す。
そんな菜月にあたしも慌てて我に返った。
「どのようなお花をお探しですか?」
いつも通りに接客を始めた菜月に彼は
「あ、いや…予約、してた者なんですが…。」
と改めて口を開く。