ノーチェ
どしゃ降りの雨音と共にあたしを呼び止める声。
「薫?どうしたの?」
振り返るとパーカーのフードを被った薫が駆け足であたしの元へ寄ってきた。
あたしは傘を差し出して薫を入れる。
背の高さが違うせいか
薫は少し前屈みになって
「忘れもん。」
そう言ってあたしのキーケースをポケットから出した。
「あぁ、ごめん!忘れてた。」
「お前、家の鍵も付いてるんだろ?帰っても入れねぇじゃん。」
「あはは、ごめん。ありがとね。」
薫からキーケースを受け取り、カバンの中へ適当に突っ込む。
「タクシー捕まえるんだろ?それまで居るよ。」
「え?大丈夫?雨すごいよ?」
「平気。あいつら自分たちの世界入っちゃって居ずらいんだよ。」
「あ~、それは気まずいわ。」
二人で笑いながら歩き出す。
あたしに気を遣ってか、薫の歩幅が少しゆっくりなのがわかった。