ノーチェ
一瞬、何が起きたのかわからなかった。
「か…おる…?」
顔にあたる雨。
雨の冷たさが徐々に服へ浸透してゆく感触。
だけど、確かに感じる温もり。
あたしを抱き締める、薫の鼓動。
足元に落ちた傘は
開いたまま、雨に打たれていた。
どしゃ降りの中、傘も差さずに抱き締められたあたしは
まだ、頭が混乱して状況が把握出来ない。
雨はそれでも止む事なんてなくて
あたしたちはもう、びしょ濡れだった。
ようやく我に返ったあたしは
「…っ薫、酔ってるの?」
そう言って体を離そうと試みる。
でも薫の腕の力が強すぎて、あたしはまだ彼の胸の中。
薫は抱き締める腕を更に強めて耳元で呟いた。
「……な。」
「え…?」