ノーチェ
…揺れる、心
ワイパーが右へ左へ往復してゆく。
それでも視界を遮ろうとする雨は
まるであたしの行く手を阻むように窓ガラスを打ち付けた。
「…伊、莉伊?」
「え?」
気が付くと桐生さんがあたしの顔を覗き込むように見つめている。
「どうした?何か考え事か?」
「あ、ううん!」
何でもない、と首を横に振ると桐生さんは優しく微笑んで
「もうすぐ着くから。」
そう言ってサービスエリアの駐車場に降りた。
傘を差し、運転席の扉を開けたまま
「飲み物買ってくるけど莉伊は何がいい?」
桐生さんが尋ねてくる。
「…あ、じゃああたしも…。」
「莉伊は車で待ってていいよ。」
紅茶でいいか?、と言われてあたしは黙って頷いた。
桐生さんの後ろ姿が
まばらな人混みに消えてゆく。
あたしは一つ溜め息を落として、どしゃ降りの外に視線を置いた。