ノーチェ
それから他愛ない話をして再び車に戻り、本来の目的地である温泉街へと向かった。
あちらこちらから湯気が上がるその温泉街に
桐生さんが予約してくれた宿へと足を向ける。
ガラっと戸を横にずらすと、優しそうなおばさんが
「いらっしゃいませ。」
と出迎えてくれた。
木の匂いに溢れる民宿はどことなく懐かしく感じる。
「気に入った?」
「うん!すごく!」
情緒溢れるその民宿も、愛想のいい女将さんも全てがあたしと桐生さんの為に存在してるような
そんな気持ちになった。
「お部屋へご案内しますね。」
民宿のすぐ外から聞こえるししおどしの音。
都会から離れ、その自然に包まれながら
女将さんと彼の背中を追い掛けた。
そんな時、肩に掛けたあたしのカバンから場違いなメロディーが流れてくる。