ノーチェ


「ごっ、ごめんなさい!」

振り返った女将さんは眉を下げて一礼すると
何事もなかったかのように再び廊下を歩き出す。

桐生さんもそれにならって再び歩き出した。



もう、何でこんな時に!


あたしはカバンの中から携帯を取り出して
着信の相手を確認する。

それは、菜月からのメールだった。



……菜月のやつ…。

沸き上がる小さな怒りを押さえつつ、メールを開いた。



【From:菜月】

家族旅行楽しんでる?てか早く帰って来なよ!莉伊も居ないし薫くんも風邪ひいてるし超つまんないんだけど!


「え?」

…薫が風邪?


ドキン、と心臓が音を立てた。



「莉伊?どうした?」

思わず立ち止まったあたしに、桐生さんが振り返る。



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