ノーチェ
窓の外に広がる森林。
そして、優しく届く川のせせらぎ。
窓際に立つと緑が太陽に染められて、全てを輝かせている。
…やめよう、薫の事を考えるのは。
そう思い、あの日を振り払うように深呼吸すると少ししゃがれた女将さんの声で
「ごゆっくり。」
と聞こえた。
正座をして一礼する女将さんに小さく会釈を返すとパタン、と静かに襖が閉まる。
「すごくいい景色だね!こんな田舎に住むのもいいかも。」
気を取り直して桐生さんに視線を向けると
影が出来てあたしは顔を上げた。
そしてふいに落とされたキス。
一瞬、何が起きたのかわからなかったけど
すぐにそれがいつものキスだと理解すると、あたしは答えるように瞼を閉じた。
絡み合う吐息が熱い。