ノーチェ
長いようで短いキス。
唇を離した桐生さんはそのままあたしの額にまた優しいキスをくれる。
頭の片隅に薫とのキスが過ぎり、あたしは桐生さんの背中に腕を回した。
「…好き。」
まるで言い聞かせるようにポツリと呟く。
好き、だなんて
この関係が始まってから初めて口にした。
これで二回目だ。
一回目は、名刺入れを返して告白をした時。
『好き』
その言葉は、あたしと桐生さんのこの関係で不必要だった。
もちろん、あたしは理解した上でこの関係になった。
だからこそ、どこかでこの言葉を避けていたんだと思う。
言ったところで、彼はあたしの物にはならないから。
「やっぱり、今日の莉伊は少し変だな。」
一呼吸置いて、頭上から降ってきた桐生さんの声に瞼を開く。
「…どうして?」
少しだけ体を離して
あたしは桐生さんを見上げた。