ノーチェ
……………
熱い太陽の日差しが少しだけ弱まった夕暮れ時に桐生さんが車を脇に寄せる。
「本当にここで大丈夫か?」
「うん、友達にお土産も渡したいし。」
シートベルトを外して
煙草を吸う桐生さんに笑顔を向けた。
そうか、と残りの一口を吸って煙草を灰皿に押し付けた桐生さんは
「また、連絡する。」
そう言ってあたしの頭を撫でる。
「じゃあ、また。」
「あぁ。」
車の窓から笑顔を向けて手を振ると、桐生さんも笑顔で返してくれた。
そして遠ざかる彼の車を見えなくなるまで見つめるとあたしは意を決して踵を返す。
お土産袋と小さな旅行カバンがやけに重たく感じる。
見慣れたその扉。
「…よし、」
自分に気合いを入れるように深く息を吐き出すとあたしはその扉に手を掛けた。