ノーチェ
…揺れる、瞳
幸せな時間や、楽しい時間は永遠のように感じても
実際は手をすり抜けて過ぎてゆくもので
まるで砂時計の如く一瞬なんだ。
だからこそ、彼と過ごす時間だけはあたしにとって大切で。
それを、自ら手放す事はあたしにはきっと出来ないから。
だから―――…
カラン、と耳慣れた鈴の音にあたしは一歩足を踏み出した。
「おっ、いらっしゃい。」
そしてあたしに視線を向けた啓介くんが、グラスを拭く手を止める。
「莉伊!おかえり!」
「ただいま。」
カウンターに頬杖をついた菜月が走ってあたしに寄ってきた。
そう、ここは啓介くんのバー。
あたし達のお決まりの場所だ。
「菜月、今日仕事は?」
「今日は定休日だよ!忘れたの?」
あははと笑った菜月は
イスを引いてあたしに座るように促した。