先生と呼ばないで【完】
前に聞いたことがある。
うちの学校は八神くんちから多額の寄付金をもらっているって。
だからなのか…
父親の態度はどこかふてぶてしい。
見ていて苛立ちしかなかった。
八神くんが反抗するのも無理ない。
「お父様、お話があるのですが…」
父親は眉毛をぴくっと上げて私を見た。
教頭先生たちはハラハラした表情で見つめている。
余計なことは言うなってことでしょ?
でも…もう黙ってられないわよ。
「お父様が心配されているようなことは何もありませんのでご安心くださいっ…あの日も私が階段から落ちそうなところを八神くんが助けてくれただけで…」
「本当にそれだけですか?うちの資産が目当てで寄ってくる女性は沢山いますからね」
バカにされたように笑われて腹が立ったけど、深呼吸をして気分を落ち着かせた。
「私は八神くんのお父様がどれほどすごい方なのか存じ上げておりませんので」
横で教頭が「何を言ってるんだっ!」と怒鳴ってきたけど、無視して話を続けた。
「それよりも…八神くんが絵を描いているのはご存知ですよね?」
「あぁ、一応知ってますよ」
「八神くんの絵の才能は本当に素晴らしいんです!美術の先生も絶賛してました。彼なら内閣総理大臣賞だって夢じゃないと。八神くんの夢、応援していただけますよね?」
「斎藤先生!あなた何を…」
再び大声で私を罵倒しようとした教頭を、父親は「まぁまぁ」と笑いながら宥めた。