先生と呼ばないで【完】
青々とした深海の中で泳ぐ一匹のイルカ。
なんて綺麗なんだろう。
じっと見つめてると、カウンターにいたマスターが声を掛けてきた。
「その絵、気に入った?」
「…え?」
「お客さん、この前もその絵に見入ってたでしょ?」
マスターは私の顔を見てにっこりとほほ笑んだ。
あの時…見られてたんだ。
思い出すと、ちょっと恥ずかしくなった。
「あ…はい。すごく綺麗な絵だったんで…」
「それね、知り合いの子が描いた絵なんだよ」
「え!凄いですね!」
「まだ若いんだけどね、才能はあると思うから描きつづけてほしかったんだけど…」
「…今は描いてないんですか?」
「そうだね。なぜか急に描かないと言い出して。これも捨てるっていうから、もらってきたんだ」
マスターは切なそうに絵を眺めた。