【短編】ing
11時過ぎには、始業式もHRも終わったら、みんな颯爽と帰っていった。
たぶん、遊びに行くからだと思う。

学校が早く終わる日って、いくら受験生でも遊びに行きたくなる。


だから、あっという間に教室はカラになった。

グラウンドから、部活をする後輩たちの声がする。


私は、遊びに行こう、と誘われたけど、断った。
みんな『貴絵はマジメちゃんだから』って笑ってたけど、杉谷君のことは言えなかった。


「松永さん」


誰もいなくなった教室は、まだ夏の風邪がじんわりと吹いていて、心地いいとは思えなかった。

そのせいか、ワイシャツの下にTシャツを着ていた杉谷君は暑苦しそうだった。

「廊下の窓も開けてくるね」

私は教室から出た。


私も暑かった。
夏服だけど、日に焼けるのを気にして、半袖のワイシャツの上からカーディガンを羽織っていたことも理由の一つ。
けどなによりも、好きな人と二人きりになると考えただけで喉が渇いたから……。

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