愛し君へ、愛をこめて
彼女はふぅ、と溜め息をつくと、すすいっと教会の窓際へと移動した。
あ、なるほど。
『歩いた』のではなく『移動した』。
彼女には足が無かったのだ。
そう、つまり彼女は浮いている。
ユーレイなのだ。
ぽむんっ、とカルハは姿を変え、奇抜な格好で彼女に近づく。
特に驚きもしない彼女は何も問うていないというのに、ただ一言こう言った。
「あの人を待ってるの…」
ぽつねんと、胸にも教会にも響いたその言葉。
カルハはふと、彼女の服装にもう一度目を向ける。
くすんだ白いウェディングドレス。
所々に破れたヴェール。
しおしおになった花束はもう、いつ散ってもおかしくない。
ただ彼女は独り言のように呟くのだ。
「早く迎えに来て…、和寿(かずとし)さん」
彼女の目には、想い人への涙が浮かんでいた。