愛し君へ、愛をこめて
男性はフッと目を伏せ、「ああ」と呟いた。
「結婚するんだ。この結婚指輪をね、彼女の左手の薬指に、はめるつもりだったんだよ」
『つもりだった』
つまり、結婚できなくなったとか?
首をかしげる鶴嫁怪(つるかけ)には、そこらへんの事情がよく分からない。
分かるはずもない。
というかこの男性、もしかして気づいてないんじゃないか?
鶴嫁怪の視線は男性の足下に向けられる。
不思議なことに、男性には足がない。
ない、というよりは『透けている』と言った方が正しいのか。
「…あんさん、彼女に会えてへんのかいな」
「うん。ここ最近ずっと探してるんだけどねぇ」
「ここ最近、ねぇ…。あんさん、いつからその彼女探しとるんや?」
「いつからか。ううむ、…忘れちゃったな。もう随分と、会ってないような気はするけれど…」