愛し君へ、愛をこめて

一方、屋敷内にいる噂の姐さんといえば。


「あらあら…、まーたうちの鶴が怒鳴ってはりますなあ」

「仲良いねぇ、あの二人」


鶴嫁怪(つるかけ)の自称弟子である【サカズキ】に注いでもらった酒を喉に流しながら、サカズキと二人、笑っていた。


姐さんの名前は【お琴】。
鶴嫁怪やサカズキは【姐さん】と呼ぶものの、時折あの嘘つき悪魔だけは彼女を【お琴さん】と呼ぶ。


蒼い着物に、結った黒髪。【さんざし】をモチーフとした簪をつけた姐さんは、まるで舞妓さんのようだ。

しかし、元が色白のため白粉はつけていない。

鶴嫁怪の言う通り、とてつもないべっぴんさんだ。


そして傍らで酒をがぶがぶ仰ぐサカズキは黒の修行衣に身を包んでいる、…のだが。

実は彼は、妖怪【酒呑童子】(しゅてんどうじ)であったりする。

そのことについては、また別のお話で……。


「ああ、そうだ。師匠(鶴嫁怪)がまた嘆いてたねえ、『姐さんには悪い虫ばっかついてまわんなあ』って。
ほんと、姐さん大好きっ子だ」

「ふふっ、せやなあ。ほんでも、うちも鶴に姐離れしてほしゅうないんよ。ああもう、うちが弟離れできんばっかりに。
不甲斐ない姉ちゃんで申し訳ないなあ」

「……。」


ほんとこいつら、相思相愛だな。と、サカズキが思ったことは秘密である。

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