少年は王都で誰と踊る
結局少年は、騎士ー…ハイネスの言うとおり、騎士団が手配した宿屋に世話になることにした。
身の回りの細々したものや暖かい寝床を騎士団が提供してくれるというのだから、悪い話でもない。
日が傾きかけた頃、ようやく宿屋の一室に落ち着き、少年は疲れた体をベッドに投げ出した。
宿屋の主人は少年の身の上を哀れみ、上等の部屋を用意してくれた。
ふかふかのベッドに横たわったまま、少年はぼんやりとハイネスとの会話を思い出していた。
少年には、少年を形容する言葉を何一つ持ち合わせていなかった。
姿形は鏡を見れば知ることができた。
ただ、自らを現す名前も思い出も、何故あの場所にいたのかという理由も、彼にはどんなに考えてもわからなかった。
宿屋の主人は、あまりにショックな現場を見たせいだと悲しそうに言っていたが、少年はそれを肯定も否定も出来なかった。
そうしてぼんやりと思考を巡らせているうちに、少年はいつの間にか眠りの海へとその身を沈めていった。