【短編】勿忘草−花に託す愛言葉−
走ること数分。
辿り着いたその川には、既に隼人が来ていた。
この前私がしていたように、隼人も岩に体をもたれかけ、顔を上げてこの澄み切った青い空を眺めている。
「ハァハァ……待たせて…ごめんね」
走ったせいで息はきれているし、服はよれているし、メイクも汗で滲んでるだろうし、髪もぐちゃぐちゃ。
もう、最悪……。
そんな私を見て、キョトンとする隼人。
「そんなに急いで来なくてもよかったのに」
ぐちゃぐちゃになった私の髪の毛を、手で優しくとかしながら、優しい眼差しで見つめてくる。
「いつも凪咲を待たせてるからな。何か……、お前の気持ちが分かったような気がしたよ」
「私の気持ち?」
隼人の言葉に首を傾げる。
「そう、待ってる時間も悪くないなって。それと、思わず寝てしまう気持ちも」
フッて鼻で笑う隼人。
「でしょ!!」
私は得意げに笑顔で答えてみた。
あっ、また空を見上げた。
「ねぇ隼人、どうしたの? 何だか元気ないよ」
さっきから確かに隼人は目の前にいるんだけど……。
心がここにないような、遠くにあるような、そんな感じがして仕方がなかった。