【短編】勿忘草−花に託す愛言葉−
「何で? 私のこと嫌いになったの?」
声が震える。
必死に絞りだした声に、隼人は私を抱き締める手を緩め、そっと体を離した。
ポロポロと零れ落ちる涙で視界が滲み、隼人の顔さえよく見えない。
「俺な……、海外転勤が決まったんだ」
隼人が……転……勤……?
「最低でも三年。いつ帰ってこれるかも分からない。凪咲のこと好きだから、俺が縛りつけたくないんだ」
だから、別れるっていうの!?
そんなの勝手だよ。
だけど……、
想像できない。
私、隼人が帰ってくるまで待ってるって言えない。
「泣かせてごめんな」
だんだんと弱々しくなる声。
そっと涙を拭う私の大好きな手。
「俺、凪咲と付き合えて本当に幸せだったよ。俺のことなんて早く忘れて幸せになれよ」
そう言うと、隼人は反対の方向へと歩きはじめた。
……私はその場に泣き崩れるしかできなかった。