【短編】勿忘草−花に託す愛言葉−
だけど……ごめんね。
別れようって言葉言わせちゃって……。
私が弱かったから、私が気付いてあげられなかったから、隼人にとってもつらい言葉言わせちゃったよね。
あなたに伝えたい。
言えなかった言葉を……。
意を決して指をのばした瞬間だった。
ドアがガチャっと音を立てて開く。
隼人……?
そんな期待とは裏腹に、中から出てきたのは隼人とは違う40代くらいの男性だった。
「どうしました?」
「あの、佐倉さんは?」
「お知り合いですか? 彼なら昨日、部屋を引き払いましたよ」
その男性の言葉に、私は隼人の部屋のドアを勢いよく開けた。
荷物一つない閑散とした部屋。
隼人の面影もすっかりなくなっていて、もぬけの殻。
「隼人ぉー……」
隼人はもういない。
少し遅かったんだ……。
その場で泣きだした私は、突然手を握りしめられ、引っ張られた。
「あ、あのっ!!」
「黙ってついてきて!」
そう言い放たれて。