【短編】勿忘草−花に託す愛言葉−

だけど……ごめんね。


別れようって言葉言わせちゃって……。



私が弱かったから、私が気付いてあげられなかったから、隼人にとってもつらい言葉言わせちゃったよね。



あなたに伝えたい。


言えなかった言葉を……。


意を決して指をのばした瞬間だった。


ドアがガチャっと音を立てて開く。



隼人……?



そんな期待とは裏腹に、中から出てきたのは隼人とは違う40代くらいの男性だった。



「どうしました?」


「あの、佐倉さんは?」


「お知り合いですか? 彼なら昨日、部屋を引き払いましたよ」



その男性の言葉に、私は隼人の部屋のドアを勢いよく開けた。


荷物一つない閑散とした部屋。


隼人の面影もすっかりなくなっていて、もぬけの殻。



「隼人ぉー……」



隼人はもういない。


少し遅かったんだ……。



その場で泣きだした私は、突然手を握りしめられ、引っ張られた。




「あ、あのっ!!」


「黙ってついてきて!」



そう言い放たれて。





< 37 / 48 >

この作品をシェア

pagetop