Rhapsody in Love 〜約束の場所〜
石原がおかしそうに口角を上げた時、口の端の髭に先ほど食べたムースのソースが付いているのに、みのりは気がついた。
スッと手を伸ばして、髭に付いたソースを指で拭い取る。
みのりの指が石原の唇に触れた瞬間、石原はピクッと表情を固くした。……そして、急によそよそしくなってしまった。
その微妙な態度の変化に、みのりも過敏になって感じ取る。
「そろそろ出ようか。」
そう言って席を立ち、会計に向かう石原の背中を、みのりは再び不安な気持ちで見守った。
――気に障ることをしたのかな?でも、いつもの石原先生だったら、あんなことくらいで怒ったりするはずないけど……。
言いようのない怖さが、みのりの中に立ち込めて、その心に覆いかぶさってくる。
こんな些細なことにさえ敏感になってしまうほど、みのりは石原をただ一途に想い続けていた。
レストランの外に出ると、小高い山の上にあるせいか、みのりの薄いアンサンブルでは肌寒かった。
駐車場までの小路を歩きながらみのりがちょっと身を震わせた時、石原はみのりに寄り添い腕の中へ包み込んだ。
ハッとして、今度はみのりの方が身を固くした。みのりがその状況を理解する間もなく、石原は顔を寄せてみのりの唇を自分の唇で覆った。
驚きとともに安堵が、瞳を閉じたみのりの中に満ちた。そして情熱が体を駆け巡り始め、みのりは石原の背中に腕を回しキスに応えた。