Rhapsody in Love 〜約束の場所〜
「うん…、泊まっていきたいのはやまやまだけど、……明日……いやもう今日か、今日の昼前には嫁さんと娘が実家から帰ってくるから……。」
石原がため息を吐き、肩をすくめながら、帰る言い訳をする。その瞬間、みのりはズキン!と響いた自分の胸の鼓動が、まるで聞こえるようだった。
石原が愛を語らない理由は、これだった。
何よりも大事な娘のためにも、奥さんとは別れられない。
愛を言葉にしたら、みのりを縛ってしまう。逆に、自分がみのりに縛られないためにも、石原は決して愛の言葉を口にしなかった。
みのりも、石原の奥さんとその娘さんに会ったことがある。
知的で優しそうな奥さんと、5歳になったばかりの可愛らしい娘さん。あの二人の幸せを自分が壊してしまうと考えただけで、罪悪感で苦しくなる。
――奥さんと別れて、自分だけのものになって……。
それだけは、絶対に求めてはいけないことだと分かっていた。
たとえそうなっても、きっと石原は幸せにはなれない……。そう、みのりは思っていた。
先ほどは、みのりの質問に答えなかった石原だったが、土日にかけて奥さんと娘が実家に帰省したから、みのりの元へやって来れたということらしい。