Rhapsody in Love 〜約束の場所〜
一人の男子生徒が、グラウンドからの階段を上がってきた。ジャージの感じからしてサッカー部ではなく、ラグビー部だ。
その男子生徒の左の手首に作った大きな擦り傷に、みのりは思わず目を奪われた。
視線を感じたのか、ふと男子生徒はこちらに顔を向け、目が合うと、はにかんだ風に会釈をした。
――あれ……?!授業に行ってる子?
名前を覚えていないという焦りを感じつつも、無視する訳にもいかないので、みのりが傷を気遣う言葉をかけようと口を開きかけた時、
「あー、仲松先生。こんな所にいたー!」
職員室のある管理棟の入口から、突然声をかけられた。副担任をしているクラスの女子生徒たちだ。
「あのねー、私たち箏曲部に入部しまーす!」
「あら!」
顧問をしている部への入部という嬉しい事柄をもたらした女子生徒たちに、みのりが思わず気をとられている間にも、男子生徒は管理棟の入口へ向かい、中に入って行ってしまった。
グラウンドでは手に負えなかった傷を、保健室で手当てをしてもらうのだろうか。
――まだ保健室の先生が帰宅してなければいいけど……。
と思いながら、結局みのりはその男子生徒の名前を思い出せなかった。