Rhapsody in Love 〜約束の場所〜
この前の体育大会の時のように、遼太郎はすぐ側にあるみのりの細い肩を抱きしめてしまいたい衝動に駆られた。
でも今、それをしても、想いが通じるどころかみのりを困らせるだけだ。それを自覚して、遼太郎は必死で衝動を抑え込んだ。
「さて、狩野くん。これで納得した?もう勉強に専念できそう?」
みのりは仕切り直すように、明るい声色に変えて、遼太郎に向き直った。
「……はい。」
遼太郎は恥ずかしそうに、小さく頷く。
「じゃあ、日本史の勉強道具を持って、渡り廊下の長机にいらっしゃい。今日の授業の復習をしてあげる。」
遼太郎は顔を赤くして、もう一度頷いた。
二人して空き教室を出ようとして、出入り口で寄り添うような体勢になったとき、
「……心配してくれて、ありがとう。」
と、みのりがはにかんで小さく肩をすくめ、遼太郎に囁いた。
遼太郎はその仕草と言葉に心臓を撃ち抜かれ、倒れそうになった。
何気ないことなのに、恋心を覚っただけでこんなにも感じ方が変わってしまうなんて。
鼻息が荒くなったのを気取られないように、唇を噛んでただ頭を縦に振り、ホームルームへ勉強道具を取りに走った。