Rhapsody in Love 〜約束の場所〜
「……彼氏はいないよ。」
みのりが寂しい笑顔を浮かべると、生徒たちは励まそうと思ったのか、口々に言った。
「大丈夫、先生。可愛いから」
「そのうち出来るって、彼氏。」
さすがに、30歳になるのに彼氏もいないなんて、高校生でもヤバいと思うらしい。
「この学校で誰かいい人いないの?」
「古庄先生とかは?」
古庄先生というのは、みのりが副担任をしているクラスの担任だ。地理の教師なので、地歴科で教科も同じ。とても近い存在ではある。
古庄先生と聞いて、女子生徒がざわめき始めた。
彼は、この学校で一二を争う…どころか、一目見ただけて忘れられないようなイケメン教師なのだ。確かに、常軌を逸してカッコイイし、気さくな性格で仕事もできる。彼氏にするには、これ以上ないほどに申し分のない男性だろう。
でも、みのりより3歳年下の彼は、みのりのことを、
「仲松ねえさん」
と呼んだ。恋愛対象にしている女子を、こんな風に呼ぶ男性はいないだろう。
「そんなこと言ったら、古庄先生が迷惑に思うわよ。」
と、みのりは肩をすくめて、生徒の提案を一蹴した。
それから生徒たちは、独身の男性教師の名前を片っ端から挙げつらっていたが、もうみのりは聞く耳を持たなかった。