Rhapsody in Love 〜約束の場所〜



 給湯室を覗いてもいないし、情報処理室にもいない。職員室を出て、進路指導室へ。ここは各大学の過去問が置いてあるので、遼太郎に渡す問題を調達しに、みのりはよく訪れる。でも、ここにもいない。

 階段を駆けあがって、右手が職員室だが、左手には職員用のトイレがある。ここかもしれないが、そこを覗くわけにもいかない。行きつ戻りつしていると、中から〝若くて可愛い〟と言われている悠木先生が出てきた。


「中に、仲松先生はいませんでしたか?」


 いきなりラグビージャージを着た遼太郎に話しかけられて、悠木はちょっとギョッとしていたが、


「誰もいませんでしたよー。」


と、にこやかに返答してくれた。


 軽く会釈をし、踵を返して1年の教室へと向かおうとした時、渡り廊下にいるみのりを見つけた。

 みのりは、いつも遼太郎とそうしているように、一人の男子生徒と並んで長机に着き、問題プリントを覗き込んでいた。

 見覚えのあるその男子生徒は、国立文系クラスの3年生だ。


――他の生徒にも個別指導をしてるんだ……。


 それを認識した遼太郎の胸の鼓動が、ドクンと切なく脈打った。自分が〝特別〟じゃなくなっていることに、軽いショックを受けていた。



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