Rhapsody in Love 〜約束の場所〜


 石原が芳野高校を離任する1年前まで観戦に行っていたから、みのりも1年生のときの二俣たちを見たことがあるはずなのだけど……。石原に会うのが目的だったから、記憶は曖昧だった。



 授業が終わって、二俣が教卓の方へ歩み寄って来た。


「ねー、先生。ホントに応援に来てくれる?」


 みのりに向かい合って教壇の下から教卓に肘をつくが、教壇の上にいるみのりよりも目線が高い。みのりは教科書や板書ノートを重ねながら、二俣に目をやった。


「予定がなかったらよ。日にちと時間と場所を教えておいて。」


 みのりは澄ました顔で、気が向かなそうな返答をする。


「えー、先生。予定なんて放っておいて、応援に来てくれよー。6月2日の土曜日だよ。場所は……ええと……。」


二俣は、頼りなさげに言いよどむと、


「野原田競技場じゃないの?」


と、みのりが助けた。


「そう!いつもそこで試合があるんだよ!よく知ってるね、先生。」


 二俣が肘をついたまま、みのりを指さす。みのりは「まあね」という風に、肩をすくめた。……石原に会うために通っていたから……とは言えなかったけれど。




< 29 / 743 >

この作品をシェア

pagetop