Rhapsody in Love 〜約束の場所〜
みのりは日本史の教授用の分厚い本を手に持ち、足を組み替えて読み始めた。顔にかかる髪を、額の脇から手を動かし耳へと掛ける。
遼太郎が近づくと、その気配を察して顔をそちらへと向けた。みのりは遼太郎の表情を確認するように、少し視線を止め、いつものように柔らかく微笑した。
「おはよう。土曜日は試合、お疲れ様。」
このみのりの微笑みと言葉に、遼太郎の心の中の澱は一瞬にして消え去っていく。硬くなった不安の塊が融けてゆき、代わりに安堵にも似た暖かい感覚が心を満たした。
「おはようございます。応援、ありがとうございました。」
遼太郎は、競技場で言ったのと同じ言葉で礼を言い、みのりの隣に腰かけた。
みのりがもう一度遼太郎の顔を凝視したので、遼太郎は戸惑って視線を返す。みのりはホッとしたような表情で、軽く首を横に振った。
みのりを落ち着かなくさせる遼太郎ではないことを確認できて、少しみのりは安心する。試合のことをもっと労いたかったが、蒸し返すとまた思い出しそうだったので、早速個別指導を始めることにした。