Rhapsody in Love 〜約束の場所〜



「そういうことに頓着ないところも、狩野くんらしいけど。」


 みのりはにっこり笑って、いとおしそうな目で遼太郎を見た。

 焦りにも似た感覚が、遼太郎の喉元までせり上がってきたが、その時、みのりが目の前に演習プリントを広げてくれた。遼太郎は何とか心を落ち着けることができ、シャープペンシルを握った。


 問題を解く真剣な目の遼太郎の横顔を見ながら、試合中の真剣な目とはまた違うことを、みのりは発見した。

 身体中に鳥肌が立つような試合中の目が、普段はとても優しげになるのだ。それも、みのりを見つめるときは、特に。

 そのギャップを意識した時、熱いものがみのりの胸の間を通り、鳩尾に落ちていくのが分かった。


 遼太郎の容貌が端正で男らしいと思うようになったのは、いつの頃からだったのだろう。

 優しい切れ長の目は美人の母親譲りなのに、男前なのだから、とても不思議だ。筋の通った形のよい鼻…。薄い唇は引き結ばれ軽く噛まれているのは、いつも問題を解く時の癖だ。


 先日の試合中、この横顔を両腕で抱え、自分の胸元へと抱きしめた……。



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