Rhapsody in Love 〜約束の場所〜
江口はひきつった苦い笑いをして、澄子へと視線を向け頷いた。そして、ポンポンとみのりの肩を叩いて、体育教官室へと向かうのか、職員室を出ていった。
江口の姿が見えなくなると、澄子がヒソヒソと口を開く。
「ちょっ…、みのりさん。何で私も一緒に…なの!?」
「いいじゃない。奢ってもらえるんだから。」
みのりも、他の教師たちの耳に入らないように、ヒソヒソ声で返した。
「いや、そうじゃなくて、江口先生カンペキに引いてたじゃない。みのりさんと二人で行きたかったんだよ。」
澄子の指摘したことを、みのりも気づいていなかったわけではない。みのりは澄子を見て、唇を噛んだ。
「…だからよ。もう私、既婚者とはデートしないんだから…。」
みのりの表情が翳り、決心のような言葉が出てくると、澄子は口をつぐんだ。
江口は石原よりも一つ年上なので、今年36歳になる。随分若いときに結婚したらしく、5人の子どもの父親だ。
「ま、何か美味しいものを奢ってもらおうよ。ねっ!?ラッキー、ラッキー♪」
クルッとみのりは表情を明るい顔に変えて、澄子の肩を叩いてピースサインをした。
とは言ったものの、5人も子どもと奥さんを養っているパパに奢ってもらうのは、少々気が引けた。