Rhapsody in Love 〜約束の場所〜
「先生、ありがとうございました。新聞のコピーもそうだけど、練習、見に来てくれて、嬉しかったです。」
みのりはそう言った遼太郎を見上げて、息を呑んだ。
「狩野くんは、優しいね。そう言ってくれると、私も嬉しい。」
嬉しいとは言っているが、それだけではない複雑な微笑みを、みのりは湛えた。
「そのタオル、洗って返したいから、ちょっと貸しててくれる?」
「いや、どうせ俺が汚すものだったんだから、いいです。」
遼太郎が首を横に振ると、みのりは遼太郎を真剣な目でジッと見つめた。
「お願い…。」
予期していなかったこの懇願は、遼太郎の全身に電流を走らせた。意識と身体が硬直して、動けなくなる。すると、みのりは黙って、遼太郎のその手からタオルを抜き取った。
「今度こそ、それじゃ、また明日ね。」
サッと道路を渡ると、みのりは校門の前で振り返るとそう言った。
遼太郎はぎこちなく会釈をし、踵を返して練習に戻る。みのりはその遼太郎の後ろ姿に、
「狩野くん。助けてくれて、ありがとう。」
と、もう一言声をかけた。
遼太郎の意識はまだ痺れていたが、みのりのその明るい声に振り返って、もう一度軽く頭を下げた。