Rhapsody in Love 〜約束の場所〜
いつもみのりが側に来た時に感じる、花のような澄んだ空気のような薫りがする…。
思わず、遼太郎はタオルに顔を押し当てた。
みのりに抱擁された時の感覚が、遼太郎の体と心に甦ってくる。大きく一息つく毎に、あの時のように気持ちが落ち着いてくるのが分かった。
「狩野さん。」
2年生のウイングの選手が、遼太郎に声をかけた。遼太郎が振り向かないので、もう一度呼ぼうとしたところ、
「今は声かけんな。」
と、二俣が肩を掴んで引き留めた。
いつも一緒にいる二俣は、今の遼太郎の気持ちが手に取るように解っていた。試合を目前にして、どうにかして集中しようとしている遼太郎を、邪魔したくなかった。
集中した時の遼太郎は、ものすごい気迫で周りの者も取り込んで、思ってもみないような力を発揮する。その遼太郎の集中力は、チームの勝利のためには不可欠なものだった。
しばらくして、遼太郎は顔を上げた。
そこには不安や動揺はなく、研ぎ澄まされた戦う男の顔つきになっていた。