Rhapsody in Love 〜約束の場所〜
間もなく、みのりが頼んでいた通り、サイレンは鳴らさず救急車が到着し、トイレから吉長が運び出される。
みのりが一緒に救急車に乗り込むとき、会場の事務職員や御幸高校の邦楽部の顧問教師が見送ってくれたので、
「すみません。トイレ、汚したままで。」
「お願いします。」
と、みのりはそれぞれに頭を下げ、後のことを頼んだ。
近くの救急の総合病院に着いて、みのりは今度は学校へ連絡を入れた。教頭へ伝えておけば、クラス担任や保護者にも連絡が行くはずだ。
事情を話した途端、教頭の顔が青ざめていくのが目に見えるような、そんなうろたえようだった。
「また状況が判り次第、連絡します。」
と、みのりは一旦電話を切った。
担任は勿論、教頭もこちらへ向かってくれるだろうか…。
早く、一人きりで対処しなければならないこの不安から抜け出したかった。
吉長は処置室に入ったきりで出てこない。時計はもう4時半になろうかとしている。
出血が始まってどのくらい経つだろうか、かなり痛がっていたけれども無事だろうか…。不安が次から次へと押し寄せて、みのりは押し潰されそうだった。