Rhapsody in Love 〜約束の場所〜
十一月も下旬ともなると、夜はかなり冷え込むようになる。自転車のハンドルを握る手がかじかんできて、「もう手袋が必要かな…」と、遼太郎は思った。
部活の後の空腹に耐えかねて、駅裏のコンビニでおにぎりでも買おうと思い立つ。通学路をはずれて芳野駅の方へと進路を変えた。
おにぎりを一つ手に入れ、店先のごみ箱に外装フィルムを捨てて、かぶりつく。おにぎりをくわえたまま、ハンドルを取ってコンビニから走り出たところで、向こうから歩いて来る一人の女性に視線が釘付けになった。
「会いたい」と思いすぎて、幻でも見ているんじゃないかと、遼太郎は自分の目を疑った。夜の8時半になろうかというこんな時間に、こんな場所にみのりがいるはずがない。そう思いながら、声をかけてみる。
「…先生?」
聞きなれた声を聞いて、みのりは目を上げた。
「…ああ、狩野くん。」
思いかげないものを見たような表情を、みのりも浮かべる。いつもの快活な表情ではなく、憔悴と言ってもいい疲れが見て取れた。
「今、部活の帰り?」
みのりは、ほのかな笑顔を遼太郎に向ける。
「はい。」と応えながら、遼太郎は残りのおにぎりを口の中へ押し込んだ。それを見たみのりは、
「こんな時間まで頑張ると、さすがにお腹がすいちゃうよね。」
と、微笑みを濃くした。