Rhapsody in Love 〜約束の場所〜



 十一月も下旬ともなると、夜はかなり冷え込むようになる。自転車のハンドルを握る手がかじかんできて、「もう手袋が必要かな…」と、遼太郎は思った。

 部活の後の空腹に耐えかねて、駅裏のコンビニでおにぎりでも買おうと思い立つ。通学路をはずれて芳野駅の方へと進路を変えた。


 おにぎりを一つ手に入れ、店先のごみ箱に外装フィルムを捨てて、かぶりつく。おにぎりをくわえたまま、ハンドルを取ってコンビニから走り出たところで、向こうから歩いて来る一人の女性に視線が釘付けになった。


 「会いたい」と思いすぎて、幻でも見ているんじゃないかと、遼太郎は自分の目を疑った。夜の8時半になろうかというこんな時間に、こんな場所にみのりがいるはずがない。そう思いながら、声をかけてみる。


「…先生?」


 聞きなれた声を聞いて、みのりは目を上げた。


「…ああ、狩野くん。」


 思いかげないものを見たような表情を、みのりも浮かべる。いつもの快活な表情ではなく、憔悴と言ってもいい疲れが見て取れた。


「今、部活の帰り?」


 みのりは、ほのかな笑顔を遼太郎に向ける。

「はい。」と応えながら、遼太郎は残りのおにぎりを口の中へ押し込んだ。それを見たみのりは、


「こんな時間まで頑張ると、さすがにお腹がすいちゃうよね。」


と、微笑みを濃くした。



< 427 / 743 >

この作品をシェア

pagetop