Rhapsody in Love 〜約束の場所〜
口の中のものを飲み下しながら、遼太郎は恥ずかしそうな顔をした。
「先生は?筝曲部の大会って、こんな遅くまであるんですか?」
遼太郎のこの問いに、スッとみのりの微笑みが消える。
このみのりの些細な変化を見逃さなかった遼太郎は、訳は分からなかったが、訊いてはいけないことだったと勘付いた。
「…うん、大会は3時過ぎには終わったんだけど…、その後……いろいろ、あって……。」
事情を説明していたみのりの声が徐々に震えて、ついには途切れてしまった。
とっさにみのりが自分の口を押えると、涙が両目から零れ落ちた。
それを見た遼太郎は、自転車にまたがったまま雷に打たれたように硬直した。
動揺が遼太郎の体の中を駆け巡り、寒いにもかかわらずハンドルを握る手のひらはじっとりと汗ばんだ。
ごくりと唾を呑み込んで、必死で体の緊張を解く。
「…すみません。俺…。」
なぜみのりが泣いているのかは解らないが、自分の一言で泣いてしまった責任を感じて、遼太郎は謝った。
謝られて、みのりは「違う」と言うように首を横に振ったが、意思に反して涙は止まるどころではなく、あとからあとから流れ出してくる。