Rhapsody in Love 〜約束の場所〜




「 ……ごめん。狩野くんの顔見たら、気が緩んじゃって…。」


 みのりのこの言葉は、遼太郎の心を鷲掴みにした。掴まれた心はキュンと震えて、みのりへの愛しさと切なく深い想いが暴れ始める。

 しかし、今の遼太郎には、ただ黙って寄り添って、見守ることしかできなかった。


 コンビニから出てきた中年の男が、泣いているみのりに「何事か」という視線を投げ掛けて通り過ぎる。


 遼太郎は自転車の向きを変えて、みのりに近づいた。自転車にまたがったままの自分と隣家の生け垣との間にみのりを立たせて、通行人の目線から隠す。

 みのりはうつむいて口を押さえ、嗚咽してしまうのを必死に堪えている。しかし、涙はポロポロと止めどもなくその頬を伝った。


 遼太郎は斜め掛けされたスポーツバッグからタオルを取り出し、雫が伝うみのりの頬を拭った。


「…あ、ありがと…。」


 口を開くと、堰を切ったように嗚咽が湧き出てくる。

 みのりがタオルを握って顔をうずめると、その額が遼太郎の肩に触れ、そのまま息を殺して泣いた。

 肩に触れたみのりの額から、震えが伝わってくる。
 自分が失恋したことを告白した時には、涙を見せまいと気丈に堪えたみのりが、こんなにも泣くなんて、余程のことがあったに違いない。



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