Rhapsody in Love 〜約束の場所〜
「そうね。教科書ではそう書いてある。中学校でも習うかな?正式に発行されたのはそれが最初なんだけど、実はそれの前に鋳造された貨幣があって、それを…」
と言いながら、みのりは板書する。
「富本銭、と言って、和同開珎を作る前の見本のようなものだと言われてます。」
富本銭から矢印を引いて、和同開珎と板書すると、生徒たちは授業プリントのその内容のところに板書を写す。
「それから、奈良時代から平安初期にかけては、結構貨幣が発行されてて…」
と、授業を進めるみのりを、遼太郎は切ない視線で見つめるが、授業の内容に入ってしまっているみのりは、一種のトリップ状態で余計な感覚はすべて排除している。
それでなくても、花園予選が終わってからのみのりの態度は、何となくよそよそしいものだった。
以前、予選の第一戦が終わった後のような、歴然とした感じではなく不安を感じるほどではないけれども……。それでも、月曜日からの面接の個別指導をしてくれているときも、みのりとの間に見えない膜が張られているように思えてならなかった。