Rhapsody in Love 〜約束の場所〜
「うーん、こんなんじゃ、今度の最後の考査はどうなるんだろうね~。心配だな~。…しょうがない、狩野くん?答えて。」
指名されていた列とは全く別のところに座っていた遼太郎は、いきなりのことに驚いて、頬杖を解いて顔を上げた。
「……せ、関孝和です。」
息を呑みながら自信なさげに答えたが、みのりはしたり顔で続けた。
「そうね。じゃあ、ちなみに関孝和の著作は?」
「『発微算法』。」
間髪入れずに遼太郎が答えると、みのりは満足げに満面の笑みで応えた。
おお―――っ…!
と、教室中がどよめく。
「さすが~」とため息にも似た声も聞こえている。
みのりの曇りのない極上の笑顔は久し振りの気がして、遼太郎はそれに反応してしまい、顔に血が上った。だが、クラスの皆は、おだてられて照れているのだと思っているようだ。
「狩野くんは、最近まで私の厳しい特訓を受けてたからね。吉竹くん、大変だと思うけど大丈夫よ。やる気さえあれば、2月の入試までには同じくらいになれるからね。」
と、みのりは、何の問題もないようにそう言ってのけた。
これからみのりの照準は、吉竹やその他センター試験を受ける生徒たちに、確実に向けられることになる。
遼太郎は、これから2月までみのりの個人指導を受けることのできる幸運な吉竹を、チラリと見遣った。