Rhapsody in Love 〜約束の場所〜
「…ごめんね。私、気が付かなくて。知ってたら、もうちょっと直前の対策をしたんだけど……。」
遼太郎が抱いているような感傷的なことではなく、みのりは現実的なことを言った。
みのりの寂しさを感じていないような素振りも、遼太郎にとっては心なしか物足りないような気持ちがする。
「いえ…、今日の練習で十分です。先生、ありがとうございました。」
気を取り直して、遼太郎は深々と頭を下げた。その姿をみのりはしみじみと見つめる。
「狩野くん、7月の終わりから4か月以上もよく頑張ったよね。入試もきっと大丈夫だと思うけど、頑張ってね。」
と、みのりは遼太郎の努力を労ってくれ励ましてくれたが、その声色に都留山高校との決勝戦の前の時のような深さはなかった。
それでも、遼太郎はしっかり頷いて、みのりの言葉を受け入れる。
その時、職員朝礼の始まるチャイムが鳴り響く。
「おっと…!」
みのりは遼太郎に目配せすると、焦って職員室へと走り去った。
一人取り残された遼太郎は、感傷と寂しさと一抹の不安を持て余して、唇を噛む。
目を閉じて歯を食いしばって、心の中に渦巻く不安定な感情を何とか落ち着けて、特別教室を出た。